CBT方式の試験とは
平成22年9月10日 情報処理技術者試験を実施するIPAは、ITパスポート試験にCBTを導入することをプレス発表しました。これにより以前の筆記方式での試験は平成23年秋期をもって終了となり、続く平成23年11月から パソコンを使った試験形式に移行しています。国家試験では初の試みであり、ITパスポートだけでなく他の国家試験にも大きな影響を与えそうです。
CBTとは「Computer Based Testing」の略で、コンピュータを利用した試験方式です。受験者はコンピュータに表示された試験問題に、マウスやキーボードを使って解答します。試験結果は終了と同時に確認することができます。
文章だけでなく、画像・音声などさまざまな問題をデジタル化し、データベースで管理するので、多彩な出題パターンが設定できます。また試験開催日も固定する必要がないため会場ごとに随時開催されています。
試験問題は受験者ごとに異なり、その都度問題データベースから適切に組み合わされて出題されます。これは同じ会場で同じ時間に受験しても受験者ごとに試験問題が異なることを意味しています。
また採点方式として以前の素点方式に代わり、TOEICやTOEFLで採用されている項目応答理論:IRT(=Item Response Theory)が採用されたのも注目すべきポイントではないでしょうか。
CBT化によるメリットは?
まず受験者側のメリットから見ていきましょう。
CBT方式で基本的に試験会場・試験の時間を受験者が選択することができるため受験者の利便性が大きく向上します。また合否判定がすぐに出るため、合格発表までの不安な日々(合格していれば次のステップに移れるが、不合格なら勉強のやり直し)が生じることもありません。
次に主催者側のメリットです。
問題冊子を作成するコスト(紙代や印刷代)が削減でき、また試験問題の配布・回収の郵送代金が無くなります。さらに採点や統計情報もすべてコンピュータによって行われるために人的コストも大幅に削減することができます。また紙であるがゆえに問題冊子の取り扱い(試験日まで公になることがあってはならない)リスクを回避することができます。
最後に意外にも問題作成者にもメリットがあるのです。
従来のマークシートによる解答方式だと、問題文を読んでの多岐選択式解答のみでしたが、コンピュータ上で問題が表示されることにより映像や音声を使った問題形式や、マウスのクリックで画面の特定の部分をクリックするなど問題にあった出題をすることが可能になってきます。
今のところITパスポートでは出題されていませんが、Microsoft Office Specialistなどのように実際の操作をシミュレーションすることを要求する解答方式が用意されている試験もあります。
CBTが導入される理由とは?
理由は数多くあると思いますが、私が重要だと考えている3つの理由を説明します。
1. 解答方式が多岐選択式のみである
これでないとCBT方式での試験は難しいと思います。記述式の解答があると自ずと目視による採点となり、CBT方式のメリットを完全に生かすことができません。
2. 問題が小問と中問で構成されていて長文問題がない
問題文はコンピュータの画面に表示されるので、(冊子で問題ページ数が2ページ分もあるような)あまりに長い問題文は視認性が悪く、受験者にとっては不便極まりないものになってしまいます。ITパスポート試験にはこのように状況把握に時間がかかる問題(状況分析や問題改善)は出題されないと思うので、CBT方式での試験が可能なのだと思います。
上位資格の応用情報技術者試験の午後問題などは、国語の文章問題のような問題文プラス、プログラムのソースコードが丸々のっていたりするので今後もCBT化は難しいのではないかというのが私の見解です。(本当は基本情報技術者試験も無理そうに感じます)
3. 試験を多くの人に気軽に受験してもらいたい
これがCBT化の一番の目的でしょう。
ITパスポートという名称からもわかるように、この資格は今までの情報処理技術者試験とは少し毛色が違う感じがします。基本情報技術者や初級シスアドが、プログラマーやEUC(End User Computing)の推進者という情報の専門的な知識を求める試験だったのに対して、ITパスポートでは「職業人が共通に備えておきたいITに関する基礎知識を測る」試験ということが明言されています。
これはITのすそ野を広めたいという国の指針にも関係しています。つまりなるべく多くの人にこの試験を受験してもらって国家のITレベルを上げていきたいと考えているわけです。そのために初級シスアドより難易度を下げて、さらに受験しやすいCBT方式の試験にすることで、ITパスポートを受験する人が増えることを狙っているのだと思います。